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「義経記」静若宮八幡宮へ参詣の事(その8)

鎌倉殿おほせられけるは、「梶原かぢはら以つて言はすれども、返事をだにもせず。御辺行きてすかして舞はせてんや」とおほせられければ、斯かる由々しき大事こそなけれ。御諚ごぢやうにてだにも従はぬ人を、賺せよとの御諚こそ大事なれと思ひて、思ひわづらひ、急ぎ宿にかへり、妻女さいぢよまうしけるは、「鎌倉殿よりいみじき大事をうけたまはりてこそさうらへ。梶原を御使ひにて仰せられつるにだに用ゐ給はぬしづかを賺して舞はせよと仰せかうぶりたるこそ、祐経すけつねが為には大事に候へ」と言ひければ、女房にようばう、「それは梶原にもよるべからず。左衛門さゑもんにもよるべからず。情けは人の為にもあらばこそ。景時かげとき田舎男いなかをとこにて、こつなき様の風情にて、まひを舞ひ給へとこそまうしつらめ。御身とてもさこそおはせんずらめ。ただ様々の菓子くわしを用意して、堀殿の許へ行きて、とぶらひ奉るやうにて、内々こしらへ賺し奉らんに、などか叶はざるべき」と、世に易げに言ひける。




鎌倉殿(源頼朝)が申すには、「梶原(梶原景時かげとき)を遣らせたが、返事さえなかった。お主が訪ねて上手く申して静に舞わせよ」と命じたので、大変な仰せを蒙った。御諚([命令])にさえ従わない静御前を、上手く言いくるめよとは身の一大事と思って、思い悩み、急ぎ宿所に帰り、妻女に申すには、「鎌倉殿(頼朝)よりたいそうな大事を命じられた。梶原(景時)をお使いにて申されたことにも聞かぬ静を上手く申して舞わせよとのことだ、この祐経にとっての一大事ぞ」と言えば、女房は、「梶原(景時)でもどうしようもないこと。左衛門(工藤祐経すけつね)も同じ。情けは人のためにあるものです。景時は田舎男ですから、無骨にも、舞を舞えと脅したのでしょう。あなたも同じことをなさるはず。ただ様々の菓子を用意して、堀殿(堀親家ちかいへ)の許へ行き、わたしを紹介してください、後はわたしが何とかいたします、大丈夫です」と、訳もなく言いました。


続く


by santalab | 2014-03-01 22:49 | 義経記

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