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「滝口入道」花宴(その2)

驕る平家を盛りの桜に比べてか、散りての後の哀れは思はず、入道相国が花見の宴とて、六十余州の春を一夕いつせきうてなに集めて都西八条の邸宅。「君ならでは人にして人に非ず」とうたはれし、一門の君達、宗との人々は言ふも更なり、甲冑摂ろくの子弟の、賎しくも武門の陰を覆ひに当世の栄華に誇らんずるやからは、今日を晴れにと装ほひて、綺羅星の如く連なりたる有様、燦然さんぜんとしてまばゆきばかり、さしも善美を写せる虹梁鴛瓦こうりやうゑんぐわの石畳も影薄げにぞ見えし。あはれこのほどまでは殿上の交はりをだに嫌はれし人の子、家のやから、今は紫緋紋綾しひもんりよう禁色きんじきみだりにして、をさをさ傍若無人の振る舞ひあるを見ても、眉をひそむる人だに絶えてなく、それさへあるに衣袍の紋色、烏帽子のため様までよろづ六波羅様をまねびて時知り顔なる、世はいよいよ平家の世と思えたり。




栄華を極める平家はまるで花盛りの桜のようでした、花が散った後の悲しみを知ることもないままに、入道相国(平清盛)が花見の宴を催して、六十余州の春をただ一夜都西八条の清盛の邸宅である大殿に集めて饗宴がとり行われたのでした。「平家でなければ人でない」と謳われた(清盛の継室時子=ニ位尼の弟、つまり義弟にあたる平時忠の台詞らしい)、平家一門の子弟、主だった者たちは言うまでもなく、武家摂関家の子弟にいたるまで、また身分の卑しい者までが平家の陰に隠れて当世の栄華を誇ろうと、今日を晴れの日と着飾って、綺羅星([きらきらと光り輝く無数の星])のように集まったその有様は、まばゆいばかりに光り輝き、荘厳で美しい虹梁鴛瓦([寺院建築などに見られる中央部分を虹のように反り返らせた梁の下に敷き詰められた、左右対称の対になっている鴛鴦おしどり瓦])さえ地味に思われました。ああ栄華を極めるまでは殿上の交わりさえも嫌われていた者(清盛の父忠盛のこと)の子や、一族の者たちが、今は紫や赤地の綾衣禁色([天皇・皇族の衣服の色で臣下の着用が禁じられていたもの])を身に纏い、まったく傍若無人の振る舞いでしたが、眉を顰めて非難する者も絶えてなく、その上衣袍([着物と上着])の紋色から、烏帽子のかぶり方まですべて六波羅様([平家一門のしゃれたスタイル])をまねて流行り子の得意顔をしていました。世はますます平家の時代であるように思えたのです。


続く


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by santalab | 2014-03-04 08:31 | 滝口入道

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