砕けよと握り詰めたる柄も気もいつしか緩みて、臥蚕の太眉閃々と動きて、思えず「ああ」と吐息つけば、霞む刀に心も曇り、映るは我が顔ならで、煙の如き横笛が舞ひ姿。これはとばかり目を閉ぢ、気を取り直し、鍔音高く刃を鞘に納むれば、跡には灯の影ほの暗く、障子に映る影さびし。
砕けんばかりに握りしめた柄も気もいつしか緩んで、臥蚕([臥蚕眉]=[眠期の蚕のように、湾曲していて太くたくましい眉])の太眉が閃々([ひらひらと動くさま])と動き、思わず「ああ」と吐息をつけば、霞む刀に心も沈んで、刀に映るのは己の顔でなく、煙のようにぼんやりと横笛の舞い姿でした。これはとばかり滝口(斎藤時頼)は目を閉じて、気を取り直し、鍔音([刀を抜き差しするとき、鍔が鯉口などに当たって出る音])高く太刀を鞘に納めれば、跡にはほの暗い灯と、障子に映る己の影だけが残ってただひっそりとしていました。
(続く)