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「滝口入道」鴆毒(その4)

ああああ、六尺の身に人並みの肝はありながら、さりとは不甲斐なき我が身かな。影も形もなき妄念に悩まされて、知らで過ぎし日はまだしもなれ、迷ひの夢の醒め果てし今際いまはの際に、女々しき未練は、あはれ武士ぞと言ひ得べきか。軽しとかこちし三尺二寸、双腕もろうでかけて畳みしはそも何のための極意なりしぞ。祖先の苦労を忘れて風流三昧にうつつを抜かす当世武士を尻目にかけし、半年前の我は今いづこにあるぞ。武骨者と人の笑ふを心に誇りし斎藤時頼ときよりに、あはれ今無念の涙は一滴も残らずや。そもや滝口がその身は空蝉うつせみのもぬけの殻にて、腐れしまでも昔の肝の一片も残らぬか。




ああ、六尺(約1.8m)の身に人並みの肝心はあるとはいえ、なんとも不甲斐ない我が身であろう。影も形もない妄念([迷いの心])に悩まされて、知らずに過ごした日々は仕方ないにしろ、迷いの夢が醒めた今となっても、女々しい未練が残るのは、ああこれでも武士と言えるのか。軽いと嘆いた三尺二寸(約96cm。一般的な太刀は75cmなのでかなり長い太刀です)の太刀を、この両腕で振り続けたのはいったい何のためだったのか。祖先の苦労を忘れて風流三昧にうつつを抜かす今の武士たちを見下した、半年前のわたしは今どこにあるというのか。武骨者と人が笑うのさえ名誉とした斎藤時頼に、ああ今無念の涙は一滴も残っていないのか。すでに己の身は空蝉の抜け殻となって、すっかり腐り昔の肝心の一片さえ残っていないというのか。


続く


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by santalab | 2014-03-05 00:06 | 滝口入道 | Comments(0)

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