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「承久記」勢多にて合戦の事(その6)

熊谷の小次郎左衛門直家なほいへは、頼みたる弟討たれて、死なんとぞ振る舞ひける。馬を射させじとて、矢の及ばぬ所に引き退けけり。信濃の国の住人福地の十郎俊政としまさと書き付けしたる矢を三町余り射越して、宇都宮の四郎が鉢付はちつけの板に、したたかに射立たり。宇都宮、安からず思ひ起き上がり、宇都宮四郎頼業よりなりと矢記したるを射て、
河端に立ちてよく引き放つ。河を筋交すぢかひに三町余りを射越して、山田の次郎が居たる所へ射渡す。勢多固めたる美濃の律師が手の者ども、船に乗りて河中よりこれを射る。その中に法師二人、宇都宮に射られて引き退く。これを見て相模のかみ、平六兵衛を使ひとして、「いくさは必ず今日に限るまじ。矢種な尽させ給ひそ」と仰せられければ、その後は軍もなかりけり。この一両日はもとより降りける雨、十三日の日盛りより車軸の如し。人馬濡れしを垂れ、雑人働かず。




熊谷小次郎左衛門直家(熊谷直家)は、頼りにしていた弟(熊谷直国なほくに)が討たれたので、自分も死のうと立ち回りました。馬を射させまいと、矢の届かない所に退けていました。信濃国の住人福地十郎俊政(福地俊政)と書き付けした矢が三町余り(300m以上)飛んで、宇都宮四郎(宇都宮頼業)の鉢付の板([兜の鉢に取り付けるしころの一枚目の板])に、したたかに刺さりました。宇都宮(頼業)は、放ってはおけないと起き上がり、宇都宮四郎頼業と記した矢を継ぎ、川端に立ってよく弓を引いてから矢を放ちました。矢は川を飛び越えて三町余り飛んで、山田次郎(山田重忠しげただ)が居る所に刺さりました。勢多を固めていた美濃律師が、船に乗って川中よりこの矢を射ました。その中の法師二人が、宇都宮(頼業)に射られて引き退きました。これを見て相模守(北条時房ときふさ)は、平六兵衛を使いとして、「軍は今日ばかりではない。矢種を尽くさないように」と命じたので、その後は軍はありませんでした。この一両日は前から雨が降っていましたが、十三日の日盛り([夏の午後の暑い盛り])になってどしゃぶりとなりました。人馬は濡れに濡れ、雑人([身分の低い者])はじっとしたまま動きませんでした。


続く


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by santalab | 2014-03-06 09:07 | 承久記 | Comments(0)

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