Santa Lab's Blog


「滝口入道」無常(その2)

恨みの言葉を言はせも敢へず、老女はまばらなる歯茎を顕はして「ほほ」と打ちみ、「さりとは恋する御身にも似合はぬ事を。この冷泉れいぜい如才じよさいは露なけれども、まだ都慣れぬかの君なれば、御身が事愛しとは思ひながら、返す言葉のはしたなしと思はれんなど思ひわづらひておはすにこそ、咲かぬ内にこそつぼみならずや」。言ひつつつと男の傍らに立ち寄りて耳に口寄せ、何事かしばしささやきしが、一言毎にうなづきて冷ややかに打ちめる男の肩を軽く叩きて、「お分かりになりしや、その時こそはこのばばにも、秋にはなきかぢの葉なれば、渡しのしろは忘れ給ふな、世にも憎きほどうらやましき二郎ぬしよ」。男は打ち笑ふ老女の袂を引きて、「そは誠か、時頼ときよりめはいよいよ思ひ切りしとか」。




恨みの言葉をさえぎって、老女はまばらな歯を見せて「ホホ」と笑って、「そのような言葉は恋するあなたさまには似合いませぬ。この冷泉にまったくぬかりはございません、まだ都に慣れていない君(横笛)ですれば、そなたのことを愛しいと思いながら、返事を返すのがはしたないと思われるのではないかと思い悩んでいるだけのこと、咲かぬ内の蕾と申しましょうか」と言いました。老女はそう言いながら男のそばに近寄って耳に口を寄せて、何事かしばらく囁いていましたが、男は一言毎にうなづきながら冷ややかに微笑む男の肩を軽く叩いて、「お分かりになられましたか、その時はこの婆にも、秋にはない梶の葉([織姫])のことですから、渡し賃はお忘れになりませぬように、世にも憎らしいほど羨ましい二郎さま」と言いました。男は微笑む老女の袂を引いて、「それは本当か、時頼(斉藤時頼)はとうとうあきらめたか」と言いました。


続く


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by santalab | 2014-03-06 11:48 | 滝口入道

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