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「滝口入道」憂身(その2)

その振り上ぐる顔を見れば、須眉すうびの魂をとろかしてこの世のほかならで六尺の体を天地の間に置き所なきまでに狂はせし傾国の色、凄きまでに麗はしく、何を悲しみてか目にたたゆる涙の珠、海棠かいだうの雨も及ばず。膝の上に半ば繰り広げたる文は何の哀れを籠めたるや、打ち見やる目元に無限の情けを含み、果てはあたかも悲しみに堪へざる者の如く、ぶるぶると身震ひして、丈もて顔を覆ひ、泣く音を忍ぶ様いぢらし。




横笛が見上げた顔を見れば、須眉([髭と眉]。斎藤時頼ときより)を心を惑わせてこの世のほかに六尺(約1.8m)の体を天地の間に置き場所のないほど恋狂わせた傾国([絶世の美女])の顔だちでした。恐ろしいほど美しい横笛でしたが、何を悲しんで目に涙を溜めているのでしょう、海棠([バラ科の高木。枝が垂れ下がっているらしい])のようにしたたり落ちる涙は雨も及びませんでした。膝の上に拡げた文にはどれほどの悲しみが籠められているのか、文に向ける目元には無限の情愛が含まれていました、果ては悲しみに堪えられなくなった者が、ぷるぷると肩を震わせるように横笛は身震いして、全身で顔を覆って、嗚咽をこらえようとする様はなんとも哀れでした。


続く


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by santalab | 2014-03-06 16:12 | 滝口入道

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