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「滝口入道」高野(その2)

滝口、「いうに哀れなる御述懐、思えず法衣をうるほし申しぬ。さるにてもいかがなれば都へは行き給はで、この山には上り給ひし」。維盛これもり卿は吐息き給ひ、「さればなり、都にじかに帰りたき心は山々なれども、つらつら思へば、かかるていにて関東武士の満てる都の中に入らんは、捕らはれにゆくも同じこと、先には本三位の卿の一の谷にてとりことなり、生き恥を京鎌倉にさらせしさへあるに、我平家の嫡流として名もなき武士の手にかからん事、いかにも口惜しく、妻子の愛は燃ゆるばかりに切なれども、心に心を争ひてからくこの山に上りしなり。高野に汝あること風の便りに聞きし故、汝を頼みて戒を受け、様を変へ、その上にて心安く都にも入り、妻子にも逢はばやとこそ思ふなれ」。




滝口(斎藤時頼ときより)は、「聞くにつけ哀れなお言葉、思わず法衣を涙で潤してしまいました。ところでどうして都へは参らずに、高野山へ上られたのでしょう」と訊ねました。維盛卿(平維盛)は大きく溜息をついて、「それはそうだが、わたしも都にすぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいだが、よくよく考えると、このような姿で関東武士(源氏)で満ち溢れた都の中に入るのは、捕えられに行くのと同じこと、先ほどは本三位の卿(平重衡しげひら。清盛の五男)が一の谷で捕えられて、生き恥を京鎌倉に晒したという、わたしが平家の嫡流(維盛は清盛の嫡孫)として名も知らぬ武士の手にかかって捕えられては、なんとも悔しいことよ、妻子への愛は燃えるばかりに切ないものであるが、思いをなんとか断ち切ってやっとの思いでこの山に上ったのだ。高野にお主がいることは風の便りに聞いていたので、お主を頼りに戒([仏道の規律])を受け、僧に様を変え、その後に安心して都に入り、妻子に逢うつもりだ」と答えました。


続く


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by santalab | 2014-03-07 20:38 | 滝口入道 | Comments(0)

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