安東の兵衛、渡瀬に臨んで見けるが、「味方は多く渡しけり。下頭にて渡瀬も遠し。三段ばかり下、少し狭みに差し覗き、ここの狭み渡すならば、直ぐにてよかりなん」と、三十騎ばかり打ち入れけるが、一目も見えず失せにけり。
安東兵衛(安東忠家)は、渡瀬([徒歩で渡れるような川の浅瀬])を探していましたが、「味方が多く渡っている。ここは下頭([坂など傾斜のあるところで、馬の頭を坂下に向けておくこと])だし渡瀬も遠い。三段(約30m)ばかり下流に、少し川幅が狭くなったところを眺めて、ここの狭みを渡れば、すぐに向こう岸に着くだろう」と、三十騎ばかり打ち入りましたが、一目も見ないうちに姿が見えなくなりました。
(続く)