かくて、かの女君、夢のごとありしに、ただならずなりにけり。それをも知らず、父母のみ恋しく、馴らはぬ住まひのわびしくおぼつかなきこと語らひ置き給ひし言を、草木の色変はり、木の葉の散り果つるままに、涙を落とし、眺めわたる。夕暮れに、稲光りのするを見て、
稲妻の 影をもよそに 見るものを 何に譬えむ わが思ふ人
など言へど、誰かは答へむ。
こうして、俊蔭の娘にとっては、まるで夢事のようでもありましたが、娘は妊娠([ただならず])しました。若小君はそれさえ知ることなく、父母だけに囲まれた、馴れない暮らしがさびしくて女と交わした約束もかないそうにありませんでしたが、季節が変わって草木の色も変わり、木の葉もすっかり散ってしまうと、涙を流して、遠くを見渡すばかりでした。夕暮れに、稲光りがしたのを見て、
稲妻の光でさえも遠くに見えるのに、逢うこともできないあの人をいったい何に譬えたらよいものか。
などと問いましたが、どこからも返事はありませんでした。
(続く)