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「曽我物語」虎を具して、曽我へ行きし事(その5)

心弱くも、祐成すけなりは、引かるる袖に立ちかへり、「さぞ思すらん。このほどは、立つ名の余所にや漏るると、粗略はなきを、何となく打ちまぼられける、本意ほいなさよ」と、細々と語りて、「今宵こよひは、ここに留まりつつ、枕のうへ睦言むつごとを、夢にもさぞと思へども、さして所望しよまうの子細あり。いざさせ給へ」とていざなひ、乗りたる馬に打ち乗せ、曽我の里へぞかへりける。日来、世になし物の君を思ふとて、内々母の制し給ふ由、ほの聞きければ、幾程あるまじき身の、心苦しく思はれ奉らじとて、母が許より北に造りたる家あり、ここに隠し置きぬ。




決心は揺らいで、祐成(曽我祐成)は、虎御前(大磯の遊女。祐成の妾)に引かれた袖に立ち返り、「情けのない者と思っているのだな。今までは、わたしの名が外に漏れると思って、いい加減な扱いをするつもりはなかったが、何となく自分かわいさから、心にもない振る舞いだったな」と、詳しく話して、「今夜は、ここに泊まって、枕の上の睦言([男女の寝室での語らい])をと、夢にさえ見るほどに思っているが、それにも増して思うところがあるのだ。さあ参ろう」と申して手を取り、乗って来た馬に虎御前を乗せると、曽我の里(現神奈川県小田原市)へ帰って行きました。日頃より、世に亡き者にしようとする君(源頼朝)に憚って、内々母が他所に行かないようにと思っていることを、かすかに聞いていました、先幾許ほどの身を、心苦しくさせないようにと、母の許より北に造った家があったので、祐成はそこに虎御前を隠し置きました。


続く


by santalab | 2014-05-10 22:33 | 曽我物語

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