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Santa Lab's Blog


「曽我物語」三浦の片貝が事(その4)

十郎じふらう、何事とは知らねども、子細ありと心得て、むまより下り立ち、弓取りなほし、「何事にや」と問ふ。この者ども、掛け見れば、片貝かたかひはなし。されども、言ひ掛かりたる事なれば、振る舞ひしかるべからず、たづねてまゐらん為なりとて、すでに事実ことじつに見えけり。始めはりをも知らず、敵はまた、伯母をば若党わかたうなり。討ち違へても、詮なし。如何にもして、逃ればやと思ひければ、自ら弓を投げ出だし、「陳ずるには似たれども、身に置きて、事を思えず。さもあれ、僻事ひがことありとも、斯様かやうにはあるまじ。しづまり給へ。べちに思ふ子細ありて、かうを請ひまうすなり。自然の時、思ひ知るべし」と言ひければ、




十郎(祐成すけなり)は、どういうことかは分かりませんでしたが、何か訳があると思って、馬から下り立ち、弓を持って、「何事だ」と訊ねました。この者どもが、走り寄って見れば、片貝はどこにもいませんでした。けれども、言い掛かりの上は、何もない振りはできなくて、片貝を連れ戻しに来たと、すでに事が起きようとしていました。祐成は何の話かも知れず、敵もまた、伯母の若党([若い侍])でした。刺し違えたところで、何の益もありませんでした。なんとしてでも、その場を逃れようと思って、自ら弓を投げ出だし、「陳ずるに似たものではあるが、この身に何があったのか、何のことやらさっぱり分からぬ。いずれにせよ、讒言する者があったとて、ここまでのこともあるまいまずは鎮まれよ。わたしには別に思うところあって、ここは降参しようと思う。事が起きた時、わたしが申した訳を知るだろう」と申しました。


続く


by santalab | 2014-05-11 22:43 | 曽我物語

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