日暮るるほど、例の集まりぬ。あるいは笛を吹き、あるいは歌をうたひ、あるいは唱歌をし、あるいはうそを吹き、扇を鳴らしなどするに、翁、出ていはく、「忝なく、穢げなる所に、年月を経て物し給ふこと、極まりたる畏まし」と申す。「翁の命、今日明日とも知らぬを、かくのたまふ君達にも、よく思ひ定めて仕うまつれ」とも申すも、「理なり。いづれも劣り優りおはしまさねば、御心ざしのほどは見ゆべし。仕うまつらむことは、それになむ定むべき」と言へば、「これよき事なり。人の恨みもあるまじ」と言ふ。五人の人々も、「よき事なし」と言へば、翁、入りて言ふ。
日が暮れる頃、あの五人がおじいさんの家に集まってきました。ある者は笛を吹きながら、ある者は歌を歌いながら、別の者は唱歌(伴奏を口ずさむこと)しながら、そしてまたは嘯(口笛)を吹いて、扇で歌の拍子をとりながらやってきました。おじいさんは家を出て、「恐れ多くも、このように汚いところに、長い間来ていただいたこと、まことにありがたいことです」と言いました。かぐや姫には「わしの命は、今日とも明日とも知れず。お前と結婚したいと申してくださる方々なのだから、よくよく考えて相手を選ぶように」と申せば、かぐや姫も「分かりました。どのお方も劣ったり優ったりするとは思えません、愛情のほどを確かめたいと思います。結婚するお相手は、それで決めたいのです」と答えたことを伝えました、「それでよろしいか。恨みもありますまい」とおじいさんが申しました。五人の男たちも、「よろしいでしょう」と答えたので、おじいさんは、内に入ってこれをかぐや姫に伝えました。
(続く)