国に仰せ給ひて、手輿作らせ給ひて、によふによふ担はれて家に入り給ひぬるを、いかでか聞きけむ、遣はしし男ども参りて申すやう、「竜の首の珠をえ取らざりしかばなむ、殿へもえ参らざりし。珠の取り難かりしことを知り給へればなむ、勘当あらじとて参りつる」と申す。大納言、起き居てのたまはく、「汝ら、よく持て来ずなりぬ。竜は鳴る雷の類にこそありけれ。それが珠を取らむとて、そこらの人々の害せられむとしけり。まして竜を捕へたらましかば、また事もなく、我は害せられなまし。よく捕へずなりにけり。かぐや姫てふ大盗人の奴が、人を殺さむとするなりけり。家のあたりだに、今は通らじ。男どももな歩きそ」とて、家に少し残りたりける物どもは、竜の珠を取らぬ者どもに賜びつ。
大伴御行は、国に命じて、手輿(前後二人で轅を手で腰の辺りで持って運ぶ乗り物)を作らせて、呻きながら担がれて家に戻りましたが、それをどのようにして聞き及んだのか、「竜の首の珠」を取りに遣らせた家来どもが大納言の家を訪れて言うには、「『竜の首の珠』を取ることができなかったので、殿にも会わせる顔がなかったのでございます。殿も珠を取ることが困難であることをお知りになられたことでしょうから、よもや勘当されることはないだろうと、こうして参った次第です」と言いました。大納言が、体を起こして言うには、「お前たちよ、『竜の首の珠』をよくぞ持って来なかった。竜というのは天に轟く雷と同じようなものだ。竜の珠を取ろうとすれば、それらの人々はきっと殺されてしまうのだ。ましてや竜を捕えたりしたら、同じく簡単に、わたしは殺されていただろう。よくぞ竜を捕えなかったことよ。『かぐや姫』という大盗人のやつが、わたしを殺そうとして仕組んだことに違いない。やつの家の近くさえも、今は通らないようにしておる。お前たちも決して近づかないように」と言って、家に少し残した金品を、『竜の首の珠』を取らなかった家来たちに与えたのでした。
(続く)