この君故、うれしくも面立たしき時も、そこら多かりしかども、また類なき目を見るにも、様々思し続けられて、いたく泣き給ふ。大将今年ぞ四十六になり給ふ。盛りに清げにて、薄色の固文の指貫に、萌黄など、直衣、薄色、紅など、わざとならぬしもいみじうめでたし。皇女は三十四になり給ふ。白き御衣どもに薄色・萌黄など、殊なる色合ひならねど、限りなく貴になまめしき御様なり。
この君(弁少将氏忠の母。明日香の皇女)を妻にして、うれしい時も晴れがましい時も、数多くありましたが、またこのようなかたちで別れることになるものよ、とあれこれと思い続けて、ひどく泣くのでした。大将は今年で四十六になっていました。盛りにして美しく、薄色の固文([綾織物の模様を糸を浮かせないで、おさえて織り出したもの])の指貫([袴])に、萌黄([黄緑色])の衣、直衣([天皇以下、貴族の平常服])は、薄色、紅など、わざとらしくない様でりっぱに見えました。明日香の皇女は三十四でした。白い衣に薄色・萌黄など、取り立てた色合いではありませんでしたが、限りなく上品で若々しく見えました。
(
続く)