かかりけれども城の中よりは、矢の一筋をも不射出さらに人ありとも見へざりければ、寄せ手いよいよ気に乗つて、四方の屏に手を懸け、同時に上り越えんとしけるところを、本より屏を二重に塗つて、外の屏をば切つて落とす様に拵へたりければ、城の中より、四方の屏の鈎縄を一度に切つて落としたりける間、屏に取り付きたる寄せ手千余人、押しに被打たる様にて、目ばかり働くところを、大木・大石を投げ懸け投げ懸け打ちける間、寄せ手また今日の軍にも七百余人被討けり。東国の勢ども、両日の合戦に手ごりをして、今は城を攻めんとする者一人もなし。ただその近辺に陣々を取つて、遠攻めにこそしたりけれ。
けれども城の中からは、矢の一筋を射る者ありとも思えませんでした、寄せ手ますます勢い付いて、四方の屏に手をかけ、同時に上り越えようとするところを、本より屏を二重に立てて、外の屏は切って落とすように作ってあったので、城の中より、四方の屏の鈎縄([先端にかぎをつけた縄])を一度に切って落としたので、屏に取り付いていた寄せ手千余人は、壁に圧されて、目ばかり働くところを、大木・大石を投げ懸け投げ懸けぶつけました、寄せ手また今日の戦で七百余人討たれました。東国の勢どもは、両日の合戦に懲りて、今は城を攻めようとする者は一人もいませんでした。ただその近辺に陣々を取って、遠攻めするばかりでした。
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続く)