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「太平記」義貞夢想の事付諸葛孔明事(その8)

ある夜両陣のあはひに、客星きやくしやう落ちて、その光火よりも赤し。仲達ちうたつこれを見て、『七日が内に天下てんが人傑じんけつを失ふべき星なり。孔明必ず死すべきに当たれり。魏必ず蜀を合はせて取らん事余日あるべからず』と悦べり。果たしてその朝より孔明病ひに臥す事七日にして、油幕ゆばくうちに死にけり。蜀の副将軍ふくしやうぐんら、魏の兵たちまちに利を得て進まん事を恐れて、孔明が死を隠し、大将の命と相触あひふれて、旗を進め兵を靡けて魏の陣へ懸け入る。仲達ちうたつは元来戦ひを以つて、蜀に勝つ事を得じと思ひければ一戦にも及ばず、馬に鞭打つてわしる事五十里ごじふり嶮岨けんそにして留まる。今に世俗のことわざに、『死せる孔明こうめい生ける仲達を走らしむ』と云ふ事は、これをあざけことばなり。戦ひ散じて後蜀の兵孔明が死せる事を聞きて、皆仲達にぞくだりける。




ある夜両陣の間に、客星([それまで観測されなかった場所で突如として見えるようになり、 一定期間後に再び見えなくなる恒星])が落ちて、その光は火よりも赤く光ったそうじゃ。仲達(司馬懿)はこれを見て、『七日の内に天下の人傑([才知・実行力などに秀でた人物])を失うという星だ。孔明は必ず死ぬであろう。魏は近いうちに必ずや蜀を統一するに違いない』とよろこんだのじゃ。はたしてその朝より孔明(諸葛亮)は病いに臥すこと七日にして、油幕([雨露をしのぐために油をぬった天幕])の内で死んだ。蜀の副将軍たちは、魏の兵がたちまち利を得て進むことを恐れて、孔明の死を隠し、大将の命令が下ったと触れ回り、旗を進め兵を靡かせて魏の陣へ懸け入ったのじゃ。仲達はもとより戦いで、蜀に勝つことはないと思っておったので一戦にも及ばず、馬に鞭打つて走ること五十里、嶮岨([地勢のけわしいさま])の地に逃れたのじゃ。今世俗の諺に、『死せる孔明生ける仲達を走らしむ』というが、このことを嘲笑していう言葉なのじゃ。魏の兵が引き退いた後孔明が死んだことを聞いて、皆仲達に降ったのじゃ。


続く
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by santalab | 2014-06-10 08:52 | 太平記 | Comments(0)

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