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「曽我物語」井出の館の跡見し事(その4)

かの一むら松のもとに立ち寄り見れば、げにも、うづもれて思えさうらふ土の、少し高く見えければ、過ぎにし五月のすゑの事なれば、花薄すすきよもぎむぐら生ひ茂り、その跡だにも見えざりけれども、亡き人のゆかりと聞くからに、懐かしく思えて、塚のほとりに伏しまろび、我も同じ苔の下に埋もれなば、今さら斯かる思ひはせざらまし、黄泉くわうせん、如何なる住みかなれば、行きて再びかへらざると、伏ししづみける有様、例へん方こそなかりけれ。翁も、心ある者なれば、ともに涙をぞ流しける。




虎御前が一叢の松の下に立ち寄り見ると、たしかに、埋めたと思われる土が、少し高く盛り上がっているように思えましたが、春を過ぎた五月の末のことでしたので、花薄、蓬、葎が生い茂り、その跡さえ見えませんでした、けれども亡き人に所縁ある所と聞けば、懐かしく思えて、塚のほとりに伏して、わたしも同じ苔の下に埋もれていれば、今さらこのように悲しい思いはしなかったでしょう、黄泉([冥土])は、どのような所なのでしょう、行っては再び帰れない所と申しますと、伏し悲しむ姿は、たとえようもありませんでした。老人も、情けある者でしたので、一緒になって涙を流しました。


続く
by santalab | 2014-06-14 08:46 | 曽我物語

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