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Santa Lab's Blog


「曽我物語」手越の少将に会ひし事(その1)

さて、ある小家こいへに立ち寄りて、あるじをうなを雇ひて、「少将せうしやう御前を呼び出だして、『旅人の、これにて、まうすべき事のさうらふ』と申し給へ」と言ひければ、「安き御事」とて、呼び出だして来たる。少将は、虎が変はれる姿を見て、言ひ出づべき言の葉もなくて、ただ涙をぞ流しける。ややありて、虎、泣く泣く申しけるは、「かの祐成すけなりあひ馴れて、すでに三年みとせになり候ふ。宿縁深きゆゑにや、またの人を見んと思はざりつるなり。この人失せ給ひぬると聞きし時は、同じ苔の下に、うづもればやと思ひしかども、つれなき命、永らへて候ふぞや。しかれば、世を渡る遊び者の習ひは、心に任せぬ事もはんべるべしと思ひて、百箇日の仏事のついでに、箱根にて、髪を下ろして、ただ一人迷ひ出で、富士の裾野の井出のほとりにて、その跡ばかりなりとも見え、憂かりし心をも慰みて、ついでに、この辺り近くおはしければ、見参げんざんに入り、物語をもまうし、この姿をも見えまゐらせむと思ひて、これまで来たりて候ふ」と語りければ、




その後、ある小家に立ち寄って、主の老女を雇って、「少将御前(手越少将=駿河手越宿の遊女、工藤祐経すけつねの妾)を呼び出だして、『旅人が、ここで、申すべきことがあると待っております』と伝えてください」と言うと、「お安いことです」と言って、手越少将を呼び出して連れてきました。手越少将は、虎御前(曽我祐成すけなりの妾)が姿を変えたのを見て、言い出すべき言葉もなくて、ただ涙を流しました。しばらくして、虎御前が、泣く泣く申すには、「祐成と懇ろになってから、すでに三年が過ぎました。宿縁深き故でしょうか、他の人に逢おうとは思わなかったのです。祐成が亡くなったと聞いた時は、同じ苔の下に、埋もれようと思いましたが、甲斐のない命を、今まで永らえて参りました。ならば、世を渡り歩くのは遊び者(遊女)の習いですれば、思い通りに行かないこともあると心を決めて、百箇日の仏事のついでに、箱根で、髪を下ろして、ただ一人迷い出て、富士の裾野の井出(静岡県富士宮市)のほとりで、祐成の跡ばかりも見、悲しさを慰み、そのついでに手越少将がおられるとお聞きしておりましたので、お目にかかり、お話もし、この姿もお見せしようと思って、ここまで参ったのでございます」と話しました、


続く
by santalab | 2014-06-14 09:33 | 曽我物語

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