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「曽我物語」母、二宮行き別れし事(その6)

高きも賎しきも、老少らうせう不定ふぢやうの世の習ひ、誰か無常むじやうを逃るべき。富宝とみたからも、つひに夢の内の楽しみなり。殊に女人は、罪深き事なれば、念仏に過ぎたる事あるべからず。斯様かやうの物語を見聞かん人々は、狂言きやうげん綺語きぎよの縁に依り、荒き心をひるがへし、まことの道に赴き、菩提を求むる頼りとなすべし。その心もなからん人は、斯かる事を聞きても、何にかはせん。よくよく耳に留め、心に染めて、亡き世の苦しみを遁れ、西方浄土さいはうじやうどに生まるべし。




身分の高い者も賎しい者も、老少不定([寿命に定めがないこと])は世の習い、誰が無常([この世界のすべてのものは生滅して、とどまることなく常に変移すること])から逃れることができましょう。富や宝を得ても、たかが夢の中で楽しむようなものです。とりわけ女人は、罪深きものですから、念仏に過ぎたものはありません。この物語を見聞きする人々は、狂言綺語([道理に そむいた言葉と飾り立てた言葉])の縁により、荒々しい心を改めて、誠の道([仏道])に入り、菩提([煩悩を断ち切って悟りの境地に達すること])を求める助けとするべきです。その心もない人は、この話を聞いたところで、仕方のないことです。よくよく耳に留め、心に染めて勤行すれば、死後の苦しみから遁れ、西方浄土([極楽浄土])に生まれることでしょう。


(終)


by santalab | 2014-06-18 08:42 | 曽我物語

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