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「源氏物語」幻(その2)

女房なども、年来経にけるは、墨染めの色細やかにて着つつ、悲しさも改め難く、思ひ醒ますべき世なく恋ひ聞こゆるに、絶えて、御方々にも渡り給はず。紛れなく見奉るを慰めにて、馴れ仕うまつれる。年来忠実まめやかに御心留めてなどはあらざりしかど、時々は見放たぬやうに思したりつる人々も、中々、かかる寂しき御一人寝になりては、いとおほぞうにもてなし給ひて、夜の御宿直といゐなどにも、これかれと数多あまたを、御座おましのあたり引き避けつつ、さぶらはせ給ふ。




紫の上の女房たちも、長年仕えていた者は、墨染めの色濃い喪服を着て、悲しさも消え遣らず、心を取り静めることもできないままに恋しがりました、六条院【光源氏】は紫の上が亡くなった後は、ほかの妻たちの許を訪ねることはありませんでした。紫の上の女房たちはいつも六条院【光源氏】に拝見できることだけを慰めに、近く仕えていました。六条院【光源氏】は今までとりわけ情けをかけてはいませんでしたが、時々は通って見捨てないほどに思っていた女房たちも、前にも増して、さびしい一人寝になってからは、ほかの女房たちと同じように扱い、夜の宿直([貴人の寝所に女性が奉仕すること])にも、数多くの女房たちを、すべて御座所([貴人の居室])から遠ざけて、近付けることはありませんでした。


続く


by santalab | 2014-06-25 08:39 | 源氏物語

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