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「源氏物語」幻(その4)

入道の宮の渡り始め給へりしほど、その折はしも、色にはさらに出だし給はざりしかど、事に触れつつ、あぢきなのわざやと、思ひ給へりし気色のあはれなりし中にも、雪降りたりし暁に立ち休らひて、我が身も冷え入るやうに思えて、空の気色激しかりしに、いとなつかしうおいらかなるものから、袖のいたう泣き濡らし給へりけるを引き隠し、責めて紛らはし給へりしほどの用意などを、夜もすがら、「夢にても、またはいかならむ世にか」と、思し続けらる。




入道の宮【女三の宮】が六条院(春の御殿)に移って来た、その時には、紫の上はつらそうな顔をしませんでしたが、事ある事に、やりきれなさそうな、悲しそうな表情をしていましたが中でも、雪が降った明け方に部屋の外にたたずむその顔は、体も凍えてしまいそうなほど、空模様の荒れた日のことでしたが、とてもかわいらしく穏やかそうには見えたものの、ひどく泣き濡らした顔を袖で引き隠して、気付かれないようにしていたことなど、一晩中思い出しては、六条院【光源氏】は「夢でもいいから、ただもう一度逢いたい」と、思い続けるのでした。


続く


by santalab | 2014-06-25 08:58 | 源氏物語

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