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「源氏物語」幻(その10)

疎き人にはさらに見え給はず。上達部なども、睦ましき御兄弟の宮たちなど、常に参り給へれど、対面し給ふことをさをさなし。「人に向かはむほどばかりは、さかしく思ひしづめ、心収めむと思ふとも、月来にけにたらむ身の有様、かたくなしき僻事ひがこと交じりて、末の世の人にもて悩まれむ、後の名さへうたてあるべし。『思ひ惚れてなむ人にも見えざむなる』、と言はれむも、同じことなれど、なほ音に聞きて思ひ遣ることの片端かたはなるよりも、見苦しきことの目に見るは、こよなく際増さりてをこなり」と思せば、大将の君などにだに、御簾隔ててぞ対面し給ひける。かく、心変はりし給へるやうに、人の言ひ伝ふべき頃ほひをだに思ひのどめてこそはと、念じ過ぐし給ひつつ、憂き世をも背き遣り給はず。御方々にまれにもうちほのめき給ふにつけては、先づいと堰き難き涙の雨のみ降り増されば、いとわりなくて、いづ方にもおぼつかなき様にて過ぐし給ふ。




六条院【光源氏】は親しい者にしか会いませんでした。上達部([公卿])たち、親密な間柄である兄弟の宮たちが、しばしば訪ねて来ましたが、対面することはほとんどありませんでした。「人に会えば、気を持ち直して物思いに沈む、心を鎮めようと思っても、今のぼんやりとした身では、ついついつまらない事を言って、後の世の者に厄介者と思われて、後に恥ずかしい名を残すのも情けないことだ。『悲しみに呆けて人に会わないのだ』、と言われるのも、同じことではあるが、それでもただ噂に聞いてみっともなく思われるよりも、この見苦しい様を見られることの方が、この上なく恥ずかしい」と思って、大将の君【夕霧】(光源氏の長男)などにも、御簾越しに対面しました。すっかり、人が変わってしまったようだと、人が噂するのはどうしようもないことと心を落ち着かせて、耐え忍んで日々を過ごし、憂き世から逃れることはありませんでした。女君たちを稀に目にすることがあっても、まず押し止めることのできない涙が雨のように流れるので、とてもつらく思い、誰とも疎遠なままに日々を送るりました。


続く


by santalab | 2014-06-26 08:52 | 源氏物語

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