夕暮れの霞たどたどしく、をかしきほどなれば、やがて明石の御方に渡り給へり。久しうさしも覗き給はぬに、思えなき折なれば、うち驚かるれど、さまよう気配心憎くもてつけて、「なほこそ人には勝りたれ」と見給ふにつけては、またかう様にはあらで、「かれは様異にこそ、故由をももてなし給へりしか」と、思し比べらるるにも、面影に恋しう、悲しさのみ増されば、「いかにして慰むべき心ぞ」と、いと比べ苦しう、こなたにては、のどやかに昔物語などし給ふ。
夕暮れの霞はかすかで、趣きがありました、六条院【光源氏】はやがて明石の御方のところへ行きました。しばらく会っていなかったのに、思いがけなく六条院【光源氏】が訪ねて来たので、明石の御方は驚きましたが、あわてるそぶりもなく、六条院【光源氏】は「やはりほかの女に優れた人だ」と思うとともに、紫の上はこうではなかったことを思い出し、「紫の上はほかの女とは何か違う、故由([奥ゆかしい風情])を知っていたのであろう」と、思い比べるにつけても、面影が恋しく、悲しみが増して、「どうすれば慰めることができるのか」と思いました、それでも何となく付き合いにくい女三の宮とは違って、明石の御方とは、のんびりと昔話などをするのでした。
(続く)