みづからし置き給ひけることなれど、「久しうなりける世のこと」と思すに、ただ今の様なる墨つきなど、「げに千年の形見にしつべかりけるを、見ずなりぬべきよ」と思せば、甲斐なくて、疎からぬ人々、二、三人ばかり、御前にて破らせ給ふ。
六条院【光源氏】自らが残し置いた文でしたが、「ずいぶん昔のことになったな」と思って見れば、今書いたような墨の色でした、「千年の形見にしようと思って残しておいたが、結局見ることはなかったな」と思って、残して置いても仕方ないと、親しくしている女房、二、三人を、御前に呼んで破らせました。
(続く)