「返事を早くいただければ、すぐに帰りますから」と、よそよそしく言うことさえつらくてともかくも文をもらえるよう小君はせかしたのでした。尼君は文を開いて、浮舟に見せました。かつてと同じ筆跡で、紙の香などもいつもと同じように、世にないほどに香りました。ちらり覗き見るだけでも、すぐに心動かされる人ならば、たいそう趣きのある文だと思うことでしょう。「ほかに伝てもありませんでしたので、様々に罪深いこととは思いながら僧都に許しをいただきました。今はなんとしても、悲しいこの世の夢語りでもと心は逸るばかり、我ながらもどかしく思っています。ましてや人目など気にする余裕はありません」と、気持ちを書き尽くせないように思われました。
「仏法の師と信じて僧都の許を訪ねていましたが、師を頼りにしているうちに、思いがけなくも小野の山道に迷い込んでしまいました。
まさかこの子のことをお忘れになってはおられないでしょう。わたしは、この子を行方知れずになったあなたの形見として世話をしているのです」などと、心細やかに書かれていました。
(続く)