若い女が、こんな山里に、今はと世を遁れて籠もっていることは、容易いことではありませんでした。ただたいそう年老いた尼、七、八人だけがいつも見る顔でした。彼女たちの娘孫たち、京で宮仕えする者、そうでない者が時々訪ねて来ましたが、「この人たちが、わたしを知る人に会って、わたしが世にいることを話しでもしたらと思うと、とても恥ずかしいことだわ。どうしてここにいるのかと疑われないとも限らないし」など怪しく思われることを避けて、女は京の人たちに会うことはありませんでした。ただ侍従とこもきという、尼君の使用人を二人だけが女に付いていました。姿かたちも心持ちも、昔の都の者たちとは違っていました。何事にしても、「世の中はこうも違うものなのかしら」と女は思うのでした。こうして、女は人に知られまいと忍んでいました。尼君も「きっと人にも言えないような訳あって話せないのでしょう」と思って、詳しい話は家の者たちにも知らせませんでした。
(続く)