次の日、中将は山を下りましたが、「小野を素通りするのは惜しい」と思ってまた尼君の許を訪ねました。尼君も中将が立ち寄ると思って、昔を思い出してまかないの少将の尼も、袖口の色は異なるものの上品な衣を着て待っていました。尼君はまして悲しそうに見えました。話のついでに中将が「ここに忍ぶようにおられる人は、いったい誰です」と訊ねました。尼君は答えるのもわずらわしく思いましたが、かすかに見付けた人を隠していると思われてはかえって怪しく思われることと思って、「娘のことを忘れ難く、罪深く思う慰めにこの数箇月置いている人です。理由は知りませんが、たいそう深く沈んでおられて、世にあることを人に知られることをいやがっておられるようです。このような谷底へは誰も探しに来ないでしょうと思って。どうしてお知りにならたのですか」と答えました。中将は「思うところありましてね。山深き道のことですから話したところで支障はありますまい。ましてあなたが娘のように思っておられる人なら、わたしにとっても人事のようには思えません。世を恨む理由は何ですか。なんとか慰めてあげたいのです」などと、女のことが気になる様子でした。
(続く)