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「曽我物語」臣下ちやうしが事(その3)

大王だいわう、不思議に思ひしかども、賢人の計らふ事なりしかば、さてのみ過ごし給ふ。その頃、国のつはもの起こりて、大王をかたぶく。合戦に打ち負けて、並びの国に移りぬ。その時、千人の臣下、さしも愛せし恩を捨てて、一度に逃げ失せにけり。王一人いちにんに成りて、すでに自害に及びける時、ちやうしが、暫く抑へていはく、「待ち給へ。この国の市にて買ひ置きし善根ぜんごんたづねて見ん」とて行く。その宝を得たりし貧人ひんにんの中に、しはうと言ふ武勇の達者なり。深き心ざしを感じ、おほくのつはものを語らひ、このわうの為に、城郭じやうくわくをこしらへ、暫く引き籠りぬ。時あつて、運を開き、再び国にかへり給ふ。これひとへに、ちやうしが買ひ置きし善根ぜんごんゆゑと、国王こくわう感じ給ふ。一人いちにん当千たうぜんと言ふ事、この時より始まりける。




大王は、どういうことかと不思議に思われましたが、賢人が考えあってなした事でしたので、それ以上何も訊ねませんでした。その頃、国の兵どもが蜂起して、大王を転覆させようとしました。大王は合戦に打ち負けて、となりの国に逃げました。その時、千人の臣下は、寵愛に与った恩を捨てて、一度に皆逃げ失せてしまいました。王は一人になって、すでに自害に及ぼうとした時、ちょうしが、しばらく止めて言うには、「お待ちください。この国の市にて買い求めました善根を、探して参ります」と言って出て行きました。かつて宝を得た貧人の中に、しほうと言う武勇の達者がおりました。深く心ざしを感じ、多くの兵を集めて、大王のために、城郭を構え、しばらくの間引き籠りました。その後、大王の運は開かれ、再び国に帰ることができたのです。これすなわち、ちょうしが買った善根によるものだと、国王は思われたのです。一人当千と言う言葉も、この時よりはじまったということでございます。


続く


by santalab | 2014-07-21 06:46 | 曽我物語

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