やや暫くありて、伊豆の国の住人、新田の四郎に、十郎打ち向かひ、「如何に曽我の十郎祐成か」「向かひ誰そ」「新田の四郎忠綱よ」「さては、御分と祐成は、正しき親類なり」「その儀ならば、互ひに後ろばし見るな」「左右に及ばず。今夜、いまだ尋常なる敵に遭はず。ゆひ甲斐なき人の、郎等の手にかからんずらんと、心にかかりつるに、御辺に遭ふこそ嬉しけれ」「一家の験に、同じくは、忠綱が手に掛けて、後日に勧賞に行はれ給はば、御辺の奉公と思ひ給へ」と言ひて、打ち合ひける。十郎が太刀は、少し寸伸びければ、一の太刀は、新田が小臂に当たり、次の太刀に、小鬢を切られけり。
ややしばらくして、伊豆国の住人、新田四郎(仁田忠常)に、十郎(曽我祐成)が出くわしました、「お前が曽我十郎祐成か」「そういうお主は誰だ」「新田四郎忠綱(忠常が正しい)だ」「ならば、お主とこの祐成は、まさしく親類よ」「ならば、互いに逃げるなよ」「申すまでもないこと。今夜、まだ名のある敵に遭っておらぬ。つまらない者の、郎等([家来])の手にかかってはつまらぬ、と思っていたが、お主に遭ってうれしく思うぞ」「一家の験として、同じくは、この忠常の手にかけて、後日勧賞に与かれば、お主の奉公と思われよ」と言って、打ち合いました。十郎(祐成)の太刀がわずかに伸びて、一の太刀は、新田(忠常)の小肘に当たり、次の太刀で、小鬢([頭の左右前側面の髪])を切られました。
(続く)