人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「増鏡」秋のみ山(その15)

京極きやうごく表の棟門むねもんに御輿を抑へて、院司ゐんし事の由を奏す。乱声らんじやうの後、中門に御輿を寄す。中門の下より出づる遣水やりみづに、ちひさく渡されたる反橋そりはし左右さうに、両大将ひざまづく。剣璽けんじごんすけ宰相さいしやう中将ちゆうじやう公泰きんやす勤められしにや。関白、公卿くぎやうの座の妻戸の御簾をもたげて入り奉らせ給ふ。とばかりありて、寝殿の母屋もやの御簾皆上げ渡して、法皇出でさせ給へり。香染かうぞめの御衣、同じ色の御袈裟なり。御袈裟の箱を御そばに置かる。内のうへ、公卿の座より勾欄かうらんを経給ふ。御供に関白さぶらひ給ふ。




京極大路(富小路。平安京の東端に位置する大路。現寺町通)に面した棟門([本柱を2本立てて棟を高く上げ、屋根を切妻造りにした平入りの門])に輿を止められると、院司([上皇・法皇・女院の庁で事務を執った職員])がお迎えいたしました。乱声([雅楽の笛の曲])の後、中門に輿を寄せられました。中門の下より流れ出る遣水([庭園内に水を導き流れるようにしたもの])に、小さく渡された反橋([中央が高く、弓状に曲線を描いている橋])の左右に、両大将(左大将今出川兼季かねすゑ・右大将鷹司冬教ふゆのり)がひざまつきました。剣璽([草薙剣くさなぎのつるぎ八尺瓊曲玉やさかにのまがたま])の役は権亮宰相の中将公泰(洞院公泰)が勤められたとか。関白(一条内経うちつね)が、公卿の座([儀式や集会の際に設けられる公卿の地位相応の座所])の妻戸([寝殿造りで、出入り口として建物の端に設けた両開きの板戸])の御簾をもたげて中へ入られました。しばらくして、寝殿([主人の居室])の母屋の御簾を皆上げ渡されて、法皇(第九十一代後宇多院)がお出になられました。香染め([黄色を帯びた薄紅色])の衣に、同じ色の袈裟をかけておられました。袈裟の箱をそばに置かれておりました。内の上(第九十六代後醍醐天皇)は、公卿の座より勾欄(廊)を渡られました。お供は関白(一条内経)でございました。


続く


by santalab | 2014-08-26 09:03 | 増鏡

<< 「増鏡」春の別れ(その14)      「増鏡」つげの小櫛(その13) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧