階の東に、二条の前の関白殿道平・堀川の大納言具親・春宮の大夫公宗・侍従中納言公明・御子左中納言為定・中宮権大夫公泰など候はる。右大臣兼季琵琶、春宮の権大夫冬信笛、源中納言具行笙、治部卿篳篥、琴は室町の宰相公春、琵琶は園の宰相基成など聞こえしにや。「その日のこと見給へねば、定かにはなし。幼き童部などの、しどけなく、語りしままなり。この内に御覧じたる人もおはすらむ。承らまほしくこそ侍れ」と言ふ。御簾の内にも、大納言二位殿琵琶、播磨の内侍箏、女蔵人高砂と言ふも、琴弾くとぞ聞こえし。まことにやありけむ。
階の東には、二条の前の関白殿道平(二条道平)・堀川大納言具親(堀川具親)・春宮大夫公宗(西園寺公宗)・侍従中納言公明(西園寺公明)・御子左([御子左家]=[藤原道長の六男長家を祖とする藤原氏の流])中納言為定(二条為定)・中宮権大夫公泰(洞院公泰)などがおられました。右大臣兼季(今出川兼季)が琵琶、春宮権大夫冬信(大炊御門冬信)が笛、源中納言具行(北畠具行)が笙、治部卿(平成輔)が篳篥、琴は室町宰相公春(室町公春)、琵琶は園宰相基成(園基成)などと聞こえました。「その日のことを見ておりませんので、確かなことは知りません。幼い童部が、このわたしに、話してくれたままに申しました。この中にご覧になられたお方もおられましょう。お話をお聞きしたいものでございます」とかの尼は申されました。御簾の内でも、大納言二位殿が琵琶、播磨内侍(三善衡子。第九十二代伏見天皇の後宮)が箏(箏の琴)、女蔵人([下臈の女房])の高砂という者も、琴を弾いたと聞きましたが。本当でしょうか。
(続く)