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「とりかへばや物語」巻一(その19)

かやうの御気色を漏り聞き給ふにも、殿は胸うち騒ぎて、あはれ、かからざらましかばいかに面目ありうれしからましと、口惜しく心憂きものから、少し微笑まれてぞ聞き給ふ。侍従の君はいと心賢く、かばかりのほどにも似ず、あるべかしくめでたく、内裏渡りにも、御方々の女房などは見る毎に心化粧せられて、露の一言葉もいかでかけられしがなと見えしらがひけり。よからぬ身を思ひ知りながら、仮初めにける身をえもて隠し遣る方なくて交らふにこそあれ、何かは目のたまらん。いと忠実まめやかにもて納めたるを、さうざうしく口惜しと思ふ人多かり。




帝【朱雀帝】がそのように思われておられるのを漏れ聞くにつれ、殿【権大納言】は胸つぶれ、ああ、侍従【姫君】が男であったならどれほど面目が立ちうれしいことかと、残念で気はふさがるように思いながら、微笑みをもって聞くほかございませんでした。侍従の君【姫君】は聡明で、年に似合わないほどに、たいそう優れて、内裏に参れば、方々の女房などは見る毎に好感を持たれようと気を配り、ほんの一言でもなんとかかけてもらえないものかと目立つように振る舞うのでした。一方侍従【姫君】は悲しい身の上を知り、仮初めの男としての身から遁れることもできずに人と交わっているものの、女房どもを気にすることはありませんでした。ただ真面目であると装っていましたので、悲しく残念に思う女房どもが多くおりました。


続く


by santalab | 2014-09-20 09:13 | とりかへばや物語

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