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Santa Lab's Blog


「とりかへばや物語」巻一(その35)

例のなほ御気色あるかと胸つぶれて、「いかにもいかにも思ひ給へず。親と申せど、浅ましう疎く恥づかしきものに思ひて、目に見え侍れば汗になりて心地さへたがへたる人なれば、尼などになして、その方に赴けてや見ましとのみなん思ふ給へなりにたり」とて、うち泣き給ひぬるを、げに世を遁れんとにはあらざりけりと、あはれに御覧じて、「それいとあるまじき事なり。春宮はかばかしき人なく、をのれを立ち離れて、いと心苦しきを、その君御遊び仇に参らせ給へ。世の中にともかくもあらば、后には給ふなん」とおほせらるるに、中納言のこと思し出でられて、これもさるべきやうこそはあらめと、うれしくもめづらかにも、様々御心乱れて、げに、さほどの交らひは仕う奉りもやせんとて、「母なる人にのたま合はせん」とて罷で給ひぬ。




朱雀院は姫君【若君】までも出仕なさるおつもりであったかと思えば左大臣【権大納言】の胸はつぶれて、「まったく思いもかけなかったことでございます。親であるわたしにさえ、たいそう恥ずかしがって、姿を見れば汗を流して気分さえ悪くなるような者ですので、尼などにして、山奥にでも住まわせようかと思っております」と申して、涙を流しました、朱雀院は出家させるつもりに違いないと、哀れに思われて、「それはやめたほうがよい。春宮【女一の宮】は頼りにする者もなく、わたしから離れて、心苦しく思っておる、姫君【若君】を遊び相手に内裏に参らせよ。世にあれば、后にしてやろう」と申されたので、中納言【姫君】のことをおもいだして、姫君【若君】もこういう運命だったのだと、うれしくも不思議なことに思い、心は乱れて、たしかに、それほどの交わりならなんとかなるのではないかと思って、「姫君【若君】の母と相談したいと思います」と申して御前を下がりました。


続く


by santalab | 2014-09-20 16:46 | とりかへばや物語

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