御髪は、つやつやとまよふ筋なく、ゆるるかにかかりて、丈に二尺ばかり余り給へる末付きの、白き御衣にけざやかにもてはやされたるなど、いづくともなく絵に描きたるほどなるを、見るごとにあないみじと胸うちふたがりて、この御有様のよろしやかに飽かぬ所あらましかば、さばれや、尼法師になして、深き山に跡を絶え給はん事も、あたらしき思ひも薄くやあらまし、かく優れ給へる御様どもにつけては、憂はしうもかなしくも、方々もろき涙ぞこぼるる。
髪は、つやつやとして乱れなく、ゆるやかに伸びて、丈の二尺(約60cm)ほども余る毛先は、白い衣に際立って、そのすべてが絵に描いたように美しく、左大臣【権大納言】はなんともすばらしいものよと胸いっぱいになるのでした、もし若君が並みの美しさであれば、たとえ、尼法師にして、深山に籠めようとも、これほどに悲しくは思わないものを、これほどに美しい姿を見れば、あまりに不憫で悲しく、ついつい涙がこぼれるのでした。
(続く)