Santa Lab's Blog


「松浦宮物語」一(その36)

暮れも果てぬに急ぎ出でて、聞きし方にたづね行く。いみじきむまをいとど打ち早めつつ、夜中にならむと見ゆるほどに、同じ如高き楼のうへに、琴のこゑ聞こゆ。遥かに尋ね上れば、道いととほし。これは鏡の如光を並べ、甍を連ねて造れる物から、屋数少なく、仮初めなる屋に人住むべしと見ゆれど、わざと木陰に隠れつつ楼を尋ね上れば、言ひしに変はらずえもいはずめでたき玉の女、ただ一人琴を弾きたり。乱るる心あるなとは、さばかりいひしかど、うち見るより物も思えず、そこら見つる舞姫の花のかほも、ただ土の如くになりぬ。故郷にていみじと思ひし神奈備かむなび皇女みこも、見合はすにひなび乱れ給へりけり。




弁少将は日も暮れぬ前に急ぎ都を出て、老人から聞いた方に向かいました。駿馬をさらに早めて、夜中になろうとするほどに、同じく楼の上から、琴の音が聞こえてきました。遥かに進んで行きましたが、道はとても遠いものでした。そこには鏡の如く光り輝き、甍を並べた御殿が立ち並んでいましたが、屋数少なく、質素な屋に琴の主はいるようでした、弁少将は木陰を伝いながら楼を上って行くと、老人が言った通りとても美しい玉のような女が、ただ一人琴を弾いていました。心を乱してはならないと、老人は言い残しましたが、弁少将は女を見たとたん言葉も失って、見馴れた舞姫の花のように美しい顔も、ただ土のように思われるのでした。故郷(日本)にいた時あれほど想っていた神奈備の皇女さえも、見比べると田舎っぽく思えるほど心は乱れました。


続く


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by santalab | 2014-10-09 23:24 | 松浦宮物語

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