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「松浦宮物語」一(その38)

これも、夜の明け行けば、琴を押し遣りてかへらむとし給ふ時に、悲しきこと物に似ず。思えぬ涙こぼれ落ちて、言ひ知らぬ心地するに、公主みこもいたう物を思し乱れたる様にて、月のかほをつくづくと眺め給へるかたはらめ、似る物なく見ゆ。例の文作り交はして別れなむとする時、「この残りの手は、九月十三夜より五夜いつよになむ尽くすべき」とのたまふ。

雲に吹く かぜもおよばぬ なみぢより とひこむ人は、そらにしりにき

とのたまへば、
くものほか とほつさかひの くに人も またかばかりの わかれやはせし

と聞こゆるほどもなく、人々迎へにまゐる音すれば、はしの方の山の陰より、のたまふままに隠ろへ出でぬ。




女【華陽公主】もまた、夜が明けようとすると、琴をしまって戻ろうとしたので、弁少将は今までにないほど悲しくなりました。思わず涙がこぼれ落ちて、言いようもなくつらくて、公主【華陽公主】を見ていましたが公主もまたたいそう嘆き悲しんでおられるようで、月をじっと眺めるかたはらめ([横顔])は、例えようもなく美しく見えました。いつものように文を詠み交わして別れる時、華陽公主が「残りの手は、九月の十三夜より五夜で残るところなく教えましょう」と申しました。

雲井に吹くあの風も通わぬ遠い浪路の彼方より、わたしを訪ねて来る人がいることは、なんとなく分かっておりました。

と申したので弁少将も、
雲の果ての遠い国からやって来た人の中に、これほど悲しい別れをした者がいるでしょうか。

と答える間もなく、女房どもが迎えに参る音がしたので、階段の方の山陰より、別れを告げつつ隠れるように出て行きました。


続く


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by santalab | 2014-10-09 23:36 | 松浦宮物語 | Comments(0)

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