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Santa Lab's Blog


「とりかへばや物語」巻一(その60)

げにさもあらんかしと、消え入りぬばかりなりし気色も思ひ出づるに、恨めしさも忘れて恋しく悲しきに、我も起き上がり歩きせんことも思えず、つくづくと起き臥し嘆き侘びつつは、さても中納言の浅からず見えながら、いかなりける事ぞとよ、ありし夜のほどにこそ、中納言も泣き沈むらめ、大方の人柄はいとめでたく、目も綾に優れて、なつかしう愛行付きながら、かやうの方はあながちにもと、妬くうち思ひ放ちて、情け情けしくもてなして過ぐすなりつらんかしと思ひ遣るも、いとめづらかにありがたかりける人の心なり。




宰相中将はそうであろうと、消え入るばかりであった姿を思い出せば、恨めしさも忘れて恋しく悲しくて、自身も起き上がり歩く気も起こらず、起き伏しまで嘆き悲しみながらも、中納言【姫君】の愛情も浅からず思えて、何ということをしてしまったのか、あの夜も、中納言は悲しんでいたな、人柄は申し分なく、目も眩むほど美しく、親しみもある中納言【姫君】が、妻に対しては情け薄いのではないかと想像しては、恨めしく思いながらも、情けあってのことではないかと思い遣れば、宰相中将にとって世にないほどありがたく思われるのでした。


続く


by santalab | 2014-10-12 11:04 | とりかへばや物語

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