浮線綾の、所々秋の草を尽くして縫ひたる指貫に、尾花色の象嵌の襖に、紅の打ちたる脱ぎかけて、光を放ち華々とめでたく、ただ今極楽の迎へありて雲の輿寄せたりとも、なを留まりて見まほしき御有様なり。
中納言【姫君】は浮線稜([文様を浮き織りにした綾])の所々に秋の草花を刺繍した指貫([袴])に、尾花色([枯れたススキの穂のような、白に薄い黒のまじった色])の象嵌([模様を色糸や金泥などで細く縁どりしたもの])の狩襖([狩衣=公家が常用した略服])の上に、紅色の光沢のある衣を重ね着しておりましたが、光を放ち華やかで美しく、ただ今極楽の迎えが来て雲の輿を寄せたとしても、なおこの世に留まって見届けたいほどの姿でした。
(続く)