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「住吉物語」上(その17)

筑前「一下りの御かへしにても給はらむ」とて責めければ、「かようのことも習はねば」とて思ひ放ちたる様を見て、かへりつつ細々と語り聞こゆれば、少将「さこそあらめ。ただなほなほも聞こえさせよ。いかなるべきにか。この事叶はすば、世にあるべき心地もせねば」とてうち眺めがちにておはするを見るにもいとほしく、日ごとに行きてほのめかせども、行く水に数書く心地して、言ひ煩ひありくほどに、継母ままははは、この事ほの聞きて、筑前を呼びて、「このほど対の君に文遣はすなるは、いかなる人やらむ」と問へば、しばしはとかくあらがひ侍りけれども、あながちに問ひ侍りければ、ありのままにしかじかと聞こゆれば、継母これを聞きてのたまふやう、「さやうの公達は、人にいたはられむとこそ思すべけれ。母もなき人よりは、三の君のねび勝り給ひたるに、さるぺき様と思ふに、耳よりにこそたばかり給へかし。さらばそこをこそこの世ならず思ひ侍らめ」と心深く言ひければ、さすがにいなみ難さに、「まことに度々聞こえ侍れども、御かへしも給はねば、少将殿、筑前をのみ責めさせ給ふもわりなく侍る。さもとても後まで申し得むことも、難げに見ゆるも心苦し。さらばさもこそは」と言へば、よろこびて、白き小袿こうちきかさね、「これは三の君の」とて出だし給ひければ、よろこびて、「さらば少将殿には元の御心ざしの人なりと知らせ奉らむ」と申しければ、「よくのたまひたり。その由にてこそは」とてよろこび給ひけり。




筑前は「たとえ一行なりとも返事をくださいますよう」にと催促しましたが、姫君は「そのようなことには慣れておりませんので」と申して断りました、筑前が少将の許へ帰って詳しく話すと、少将は「仕方のないことだ。ともかく何度でも文を届けよ。どうなるかは知れないが。この事が叶わなければ、世にあっても仕方ないほどに思っているのだ」と申して遠く目を遣って想いを馳せているのを見るにつけても気の毒で、筑前は毎日姫宮の許を訪ねて少将の想いを伝えました、少将は流れる水に字を書くような心持ちで、わずかな望みをかけていましたが、継母が、このことをほのかに聞いて、筑前を呼んで、「この頃対の君【姫君】に文を届けているのは、何という人なのですか」と訊ねました、筑前はしばらく答えずにいましたが、継母がしつこく聞くので、ありのままにしかじかの人ですと答えると、継母はこれを聞いて申すには、「それほどの公達([皇族の人々])ならば、人に大切にされなくてはなりません。母もいない者【姫君】よりは、三の君(継母の実子)のほうが年も上ですから、ちょうどよい相手だと思いませんか、いい話を聞きました。三の君との仲がうまくいったならこの世のみならずあなたに尽くしましょう」と心を込めて申したので、筑前も断り切れずに、「姫宮へは何度も文を届けましたが、返事さえもらえません、少将殿は、わたくしばかり責められてやりきれない思いがいたしておりますし。今後文を届け続けても、姫君との仲がうまくいくこともむずかしいと思えば心苦しくなります。そうならば」と答えると、継母はよろこんで、白い小袿([高位の宮廷女性の上着])を一揃え、「これは三の君からのお礼です」と申して与えました、筑前はよろこんで、「少将殿へは三の君を想う相手と思わせるようにいたします」と言うと、継母は「よくぞ申してくれました。ではそういうことで」と申してよろこびました。


続く


by santalab | 2014-10-21 19:47 | 住吉物語

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