「怪しく、いかなる文か」と見れば、
白雪の 世にふるかひは なけれども 思ひ消えなむ ことぞかなしき
と書き給ふを、侍従取りて、姫君に、「かく」と申せば、さすがに、あはれに思ひながら、「余所なりしその
上だにも思ひ寄らざりし。今はいよいよ人聞き見苦し。努々」とぞ聞こえける。かくしつつ、新玉の年も
返りにけり。
侍従は「不思議なこと、何が書いてあるのでしょう」と見れば、
白雪が降るように世に経る(降るを掛ける)甲斐もないわたしだが、いつしか消える白雪のように、姫君への想いが消えたのかと思えば悲しくてなりません。
と書いてありました、侍従は文を持って、姫君に、「文でございます」と申せば、姫君はさすがに、あわれに思いながらも、「他人であった昔でさえも少将のことを想ってはいませんでしたのに。今となってはますます人聞きも悪く見苦しく思うばかりです。けっして少将のことを想うことはありません」と答えました。こうして年も改まりました。
(続く)