「かかる御簾の外、いまだ習ひ侍らぬ事にて、はしたなく恐ろしくこそ思ふ給ふらるれ。な疎ませ給ひそ」とて、やをらすべり入り給ひぬ。浅ましくあきれ惑ひ給ひて、うつ伏し臥し給へるを、「あが君、かくな疎ませ給へそよ。なれなれしき有様は、よに御覧ぜられ侍らじ。かたじけなき事なれど、怪しながら、いま一人類あると思せ」と、いとのどやかに、なつかしうこしらへ慰むれど、夢のやうに思ひ騒ぎ給へる、いと理なるに、中の君も、身に添へて居ざり出で給へりければ、うち添ひ給へるなるべし。
中納言【姫君】は「御簾の外で夜を過ごすことには、馴れていません、みっともないことですが恐ろしくて。わたしのことを嫌がらないでください」と言って、たちまち御簾の内へ入りました。姫君【吉野の姫君】たちはびっくりして、顔を伏せてしまいましたが、中納言は「姫君たちよ、怖がらないでください。恐れ多いことですが、ともかくも、一人姉妹が増えたと思いなさい」と、落ち着いて、親しげに言いなしましたが、姫君たちはまるで夢のように思って心騒ぐのも、当然のことでした、中の君も、大君【吉野の大君】のそばで逃げ出すこともできずに、大君のそばにうつ伏していました。
(続く)