さて、日も暮れ方になりけるに、鶯の鳴きければ、初音珍しく聞きて、三の君、
我が宿に まだおとづれぬ 鶯の さへづる野辺に 長居しつべし
中の君、
初音は めづらしけれど 鶯の 鳴く野辺なれば いざ帰りなむ
と聞こゆれば、少将、かくなん。
初声は 今日ぞ聞きつる 鶯の 谷の戸出でて 幾世経ぬらむ
と、のたまひて遊び暮らしつつ、方々
帰り給へば、少将、姫君の御有様を見給ひて、身に添ふ心地して、ここにて日を暮らしたく思ひ給へども、力なくて、帰り給ひけり。
やがて、日も暮れ方になって、鶯が鳴いたので、初音を珍しいと聞いて、三の君は、
わたしの宿には、まだ訪れてくれない鶯が、鶯がさえずる野辺に、つい長居してしまいました。
中の君は、
初音を聞くのはめずらしいことですが、鶯が鳴く頃になりましたので、さあ帰りましょう。
と詠んだので、少将は、こう詠みました。
初声を今日初めて聞きました。鶯が谷の戸を出るのを、どれほど待ち侘びたことだろうか。
と、詠んで遊び暮らした野辺を、それぞれ帰って行きました、少将殿は、姫君の面影が目に焼き付いて、身から離れないような気がして、ここにしばらくいようと思いましたが、仕方のないことでしたので、帰ることにしました。
(続く)