向かふ兵数のままに捕り拉がむとするに、「後ろ方に秀れて弓射る者あり」と聞きて、馳せ返る。夜の白むほどに、かれと見付くるままに、飛ぶが如くにかかるを、引き設けたる矢にて鎧の空き間を射るに、矢を受けながらいささかたはむところなく、太刀を抜きて、伴ふ兵七八人もろともに、一人を中に取り込めむと、馬の頭を並べて馳せかかる時に、せむ方なくて、我も太刀を抜きて打ち合はむとするを、物の数とも思はず、我が手に入れたる物のやうに思へるに、一人と見つる左右に、容姿・馬鞍まで、ただ同じ様なる人四人、たちまちに出で来ぬるに、猛き心もしばし滞りて、見定めて討たむとするに、ただ同じ様なる人また五人、宇文会が後ろに馳せかけて、並べる八人が太刀抜きたる右の肩より、竹など打ち割るやうに、馬鞍まで一刀に割り裂きつる時に、遠く見る者、またこの人に弓を引き、刀を抜きて向かはむと思ふなし。
宇文会は向かう敵をすべて打ち倒そうとしましたが、「後ろに強弓を射る者がいます」と聞いて、馳せ返りました。夜の白々と明けるほどに、奴と見て、まるで飛ぶが如くに打ってかかるところを、引きためていた矢で鎧の隙間を射ましたが、宇文会は矢を受けながら少しもひるむことなく、太刀を抜いて、引き連れた兵七八人とともに、この者一人を中に取り込めようと、馬の頭を並べて馳せかかりました、射手は弓をあきらめて、太刀を抜いて打ち合おうとしたので、宇文会は太刀なら相手にもならぬ、首を捕ったも同じと思っていましたが、一人と思ったその左右に、姿かたち・馬鞍まで、まったく同じに見える者が四人、たちまち現れて、荒々しい心もしばらく鎮まり、敵を見定めて討とうとするところに、まったく同じ姿かたちの兵がまた五人、宇文会の後ろから馳せかけて、並んだ八人が太刀を抜いた右肩より、まるで竹を打ち割るように、馬鞍まで一刀に宇文会を斬り裂きました、遠くでこれを見た敵軍は、この者たちに弓を引き、刀を抜いて立ち向かおうと思う者はいませんでした。
(続く)