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Santa Lab's Blog


「増鏡」久米の佐良山(その32)

よろづにつけて、事の気色を見るに、行くすゑとほくはあるまじかんめりと悟りぬ。あづかりがほのめかししも、情けありて思ひ知らすれば、同じうはと思ひて、またの日『かしら下ろさんとなん思ふ』と言へば、『いとあはれなる事にこそ。あづまの聞こえやいかがと思ひ給ふれど、なんでう事かは』とて、許しつ。かく言ふは、六月みなづきの十九日なり。かの事は今日けふなんめりと、気色見知りぬ。思ひまうけながらも、なほためしなかりける報ひのほど、いかが浅くは思えん。

消えかかる 露の命の 果ては見つ さても東の 末ぞゆかしき

なほも、思ふ心のあるなんめりと、憎き口付きなりかし。




何事につけて、様子を見るに、具行ともゆき(北畠具行)は余命長くないことを悟りました。預かり([罪人などを預かって監視したり世話をしたりする者])がそれとなくほのめかすのも、情けがあるものと思われて、同じことならばと思い、次の日『頭を下ろして出家したい』と申せば、預かり(佐々木道誉だうよ)は『哀れなことです。東の意向が気になりますが、よろしいでしょう』と、許しました。具行が出家したのは、元弘げんこう二年(1332)六月十九日のことでございました。具行は今日までの命だろうと、感じたのでございます。思われていたことではございましたが、例のないほどの報いが、浅いものとは思えなかったのでございます。

我がはかない命が露のように消えようとしていることを知る。それでも東国が滅びる様を見ることができないことを残念に思う。

なおも、思うところがあったのでしょう、恨み言を申すほかございませんでした。


続く


by santalab | 2014-11-12 08:21 | 増鏡

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