雨降り暮らして、いと暗き夜の空を、なほ明けながら眺め出でたれど、憂へ遣る方なきに、例の所狭う匂ひ来る風の迷ひも、いとど心騒ぎする。奥の方にぞ人の気配すれば、うれしきにも心は惑ひて、戸は引き立てつ。
うきてみる ゆめのただぢの しのばれば ながき別れを いそがざらまし
雨は降り止まず、たいそう暗い夜空を、弁少将は夜が明けるまで眺めていましたが、悲しみは遣る方なく、所なく梅の香を運ぶ風に、心騒ぎも止みませんでした。奥の方に女がいるような気がして、うれしくも心は惑い、思わず戸を閉じました。
悲しそうですね、夢の直路([夢の中で通うまっすぐな道。夢の中では思う人のもとに行けるところからいう])を辿りたいと願っているのなら、どうして、永遠の別れを急ごうとしているの。
(続く)