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Santa Lab's Blog


「とりかへばや物語」巻二(その3)

「いでや、さはれ。かくてあり果つべき身ならばこそは。世の人の見思はん言の葉を聞き入れられ奉るもあいなし。すべて我が身の世付かぬをこたりのみこそ、思ふにも尽きせぬ心地すれ」と、涙さへ落つるを、さばかりもて騒がるるに、由々しと見る人もこそとわづらはしければ、立ち退きぬる名残りも、女の御心の中ぞいと苦しう消えぬばかりなれど、人はいかでか思ひ知らん。ひとつに喜びて、殿上の御湯殿、大将殿の上迎へ湯などもて騒がるに、中納言の御有様、あまりすさまじうと目留むる人もあれど、人柄の余り思ひすまし、様悪しからずもてしづめ給へるけなめりとぞ見なしける。




中納言【姫君】は「そんなに、恥ずかしがらずともよろしいのでは。わたしが何も申さずにいるとでも思われましたか。世の人に知られたらどうするつもりだったのでしょう。すべてわたしの身から出た錆と思えば、後悔したところで仕方のないことですが」と、涙さえ流しながら申しました、出産のよろこびにまわりは騒ぎ合っていたので、不審に思われるのも煩わしく、中納言はそれだけ言い残すと四の君の許を立ち去りました、女【四の君】の心中は苦しく今にも絶えるばかりでしたが、他人は知る由もありませんでした。ただただまわりの人々はよろこび合って、殿上(右大臣の妻)が湯殿([産湯])、大将殿の上(左大臣の妻)が迎え湯([産湯の世話をする人])などと騒ぎ合っていました、中納言【姫君】が、あまりにも他人行儀なのでどういうことかと怪しむ人もありましたが、きっと人柄のせいでしょう、みっともないと気を落ち着かせているのではと思っていたのでした。


続く


by santalab | 2014-12-28 11:09 | とりかへばや物語

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