こちたく長き髪を引き結ひてうち遣りたるなど、かくてこそまことにおかしう見まほしけれと思ふに、大方は香り満ち、いみじうなつかしげなり。万を書き尽くし、さばかり隈なく色めかしき色好みの、深くあはれと心に染められんと尽くし給ふ言の葉・気色、何の岩木もなびきつべきに、女君も心強からずうち泣きて、いみじう哀れげなる気色に、いとど立ち別るべき空もなし。
とても長い髪を引き結び垂らした姿は、確かに美しい女だと思わずにいられませんでした。あたりには香りが充満して、惹きつけられるようでした。言葉を尽くし、余すところなく惹き付ける好き者が、深く想いを寄せるその言葉・姿は、心ない岩木でさえもなびくほどでしたが、女君【四の君】もまた情けに絆されて涙を流して、たいそう悲しげな表情を浮かべていたので、宰相中将は立ち去ることができませんでした。
(続く)