男はさこそあらぬ、女はしもいと深くはおはせぬ折と言ひながら、今始めたる事ならねば、仲立ちの人も知らぬやうもなかりつらん、かうなど消息しけんものを、かかるほどうひとけ人給ひつらんは、おぼろけに思すにはあらぬなめり、かの人の、心ざしに任せて嬉しとは思ひながら、なま心劣りせぬやうはあらじかし、いと恥ずかしき人をかつはうち思ふらんかし、のどかに我なき隙々も多かるものを、かばかり打ち解け給へるほどの、いみじう騒がしう罵りたる折しも、見る人もありつらん、人目こそ我ため人のいみじう哀しけれ、なをいかにすべき世にかあらん、さりとて、このあたりに掻き絶えなんも、人聞きいと軽々し、さりとて、かくのみ互に人目も包むましかめるに、知らず顔にて過ぐさん事も、いと心なきことと思ひ乱れて、遊びや何やかやとあれど、いたうももて囃さず。
男とはこういう生き物なのでしょう、女【四の君】が産後で動けない折とは言え、今に始まったことでなし、仲立ちの女房が知らぬはずもない、今夜のことも知らせてあったはず、このような折に訪ねて来るのは、四の君への愛情もただならぬものがあるのでしょう。仲立ちの女房の、好意に任せて浮かれて、気遣いしているようには思えない、きっとわたしのことも軽蔑しているのでしょう、わたしが不在でもっと気が楽な時も多くあるのに、大勢の人が集まる、どうしてこの儀式の日なのか、見る人もあるかもしれないし、人の知るところにもなればわたしにとっても四の君にとっても不幸なこと、どうすればよいものか、とはいえ、宰相中将と四の君が人目も気にせず密会していることを知りながら、知らぬ顔で見過ごすのも、情けのないように思われて心は乱れ、遊び([管弦])などがありましたが、中納言【姫君】は満足に楽しめませんでした。
(続く)