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Santa Lab's Blog


「松浦宮物語」三(その28)

若き人々いと数多あまた、はかなき肴などまで、見えぬ事を尽くして、思ひ思ひに営みける贈り物ども、持たせて待ちければ、げに音をだに泣くべき所なし。夜すがら遊び明かせど、心にはいかなることかは思はむ。「さば、かうて止みぬるにや」と思ふに、また何事も思ひ交ぜられず。雲にも雨にもまがへし疑ひよりも、げに時の間も、こは思ひ寄るべかりける契りのほどかはと、今しも空恐ろしう、思ひ続くるに添へて、胸より余る心地のみすれど、野山にあくがれし心も引き替へつつ、ただ一方の見るを逢ふ方に急がれて、いとまゐれど、ほのかなる御影ばかり、薄き帷子かたびらを守り上げて、思ひ砕くる心の内ぞ悲しき。




若い人々が大勢、酒肴にいたるまで、趣向を凝らして、思い思いに贈り物を、携えて帰りを待っていましたので、弁少将は泣くこともできませんでした。夜通し遊び明かしましたが、心の内では何を思っていたのでしょう。「この国とも、離れてしまうのか」と思えば、思いは尽きることはありませんでした。雲とも雨とも思い煩った女の正体は明らかとなりましたが、ほんの一瞬も、后であったとは思いもしなかったことでしたが、それを知った今となればさらに恐ろしくさえ思われて、思い悩むほどに、心の内に収めることはできませんでした、牡丹の花を探して野山を駆け巡った思いに引き替えて、ただ残されたわずかの間も后の姿を目に焼き付けておきたいと、朝早くより参内しましたが、わずかに影ばかりが、薄い帷子([几帳・とばりなどに用いて隔てとする薄い絹布の垂れ布])に映るばかり、弁少将の思いは砕かれて心の内は悲しいものでした。


続く


by santalab | 2015-01-09 08:46 | 松浦宮物語

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